パパパパーン♪結婚行進曲
結納の日。12月の半ば、とても寒かったけどとてもお天気のいい日だった。
夫が初めてウチに挨拶に来た時のことをよく覚えている。この日まで、夫は一度も私の両親と会ったことがなかった。母は意外にも、いつもの日のあたる場所で新聞を読んでいた。父は無言のまま、あっちの部屋へ行ったりこっちの部屋に来たり。レコードも1曲最後まで聴くこともなく、次のレコードにと変わる。タバコを吸ったかと思えばお茶を飲み、トイレに行ったかと思えば台所にいる。そしてとうとう、竹ぼうきを取り出し庭の芝生の掃除まで始めた。
夫が到着する。笑顔で出迎える母と、竹ぼうきを慌てて放り出し、オーディオルームのソファに飛び込む父。「やぁ来たか~。」ぐらいの余裕の表情で。夫も緊張していたろうが、父の方がその何倍も緊張していただろう。なんだか2人の話がかみ合わない。妙な間。とうとう父が切り出す。「ところで、miyabiと結婚してもらえるという話なんだろうか?」 「そうなんですが。」 こんな変な結婚の挨拶ってないんじゃないかと思うけど。
それから3ヵ月で結納の日を迎えた。夫の母から譲り受けた振袖を着る。近所のおばちゃんが来て着付けをしてくれた。母は自分の事のようにはしゃぎ、家中をバタバタと走り回っていた。私もとても幸せな気持ちだったし、誇らしい気持ちでもあった。でも、夫がウチに初めて来た時から、「良かったなぁ。いい人だよ。」といつも言ってくれた父から、ひとことも「おめでとう」の言葉を聞いていないのが気になっていた。それに朝から一度も話しかけてくれない。
着付けもそろそろ終わるかというその時。初めて聴くぐらいの大音量で結婚行進曲が響き渡った。開け放したサッシからは、町内全体に届いたんじゃないかと思うぐらいの大きな音で。「パパパパーンッ パパパパーンッ!!」 着付けをしてくれていたおばちゃんがびっくりしてひっくり返るほどの音。母が慌てて止めようとする。でも、父はプレーヤーの前に立ち私に背中を向けたまま動こうとしない。ありがとう。涙が出た。
日比谷公園で、晴れ着の私と腕を組んで笑う父の写真。いつまでもあの笑顔でそばにいて欲しかった。
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